Webレポート│深掘り!鴨川生活Vol.1

地魚礼賛、鴨川の底力。

日本人は魚が好きだ。
海鮮料理をイメージしただけで食指がグッと動くはず。
鴨川港を仕入れ先漁港とする『いずみや鮮魚店』を訪ね、地魚の魅力を探ってみた。

 海にぐるりと囲まれた房総半島は漁業が盛んだ。なかでも鴨川の海は、沿岸部から沖にかけて起伏に富んだ海底地形が広がっており、生息する生物は1,300種以上。岩礁域を住処にする伊勢エビやアワビ、沖の深海に生息するキンメダイやマダイ…、そこに黒潮に乗ってやってくる回遊魚が加わり、年間を通して多種多様な魚種を漁獲できる好漁場を形成している。

 千葉県内有数の魚種の豊富さを誇るのも、恵まれた漁場を最大限に活かす漁師の皆さんの努力の賜である。鴨川港のお膝元で70年にわたり鮮魚の販売・卸しを手掛けている『いずみや鮮魚店』の原田裕光さんは、「鴨川では、定置網漁、一本釣り漁、刺し網漁、巻き網漁、海女漁など様々な漁法が行われているため、年間を通して魚種が豊富なのです」という。

豊富な魚種を安定的に供給できる定置網漁

 特に定置網漁は、沿岸の海中に漁網を設置し回遊する魚を誘い込んで捕獲する効率の良い漁法。海が激しく荒れていないかぎり漁に出られるので、安定した漁獲量が維持できる。
 実のところ外房の海は潮の流れが速く定置網漁に適しているとは言い難い。大正五年、先人達が知恵を絞り潮の流れに負けない定置網を魚の回遊する場所に設置。以来鴨川では、100年にわたって外房唯一の定置網漁が行われて来た。

 しかも「鴨川産の魚を最も美味しい状態で食べてもらいたい」と、鮮度を保つ船上活〆(いけじめ)を行っている。船上活〆とは、捕った魚の血を漁船の上で抜いてしまう技法。鮮度の劣化を抑制する効果が非常に高い。
 魚種は、サバ、アジ、ヒラマサ、サワラ、タイ、カワハギ、ウマヅラハギなど約20種。「天然マダイの活〆は3日ほど熟成して刺身にすると最高!血生臭さはまったくなく、凝縮された旨味とまったりとした食感が堪能できます」と原田社長が太鼓判を押す。

生息域の北限で漁獲するキンメダイ

 房総沖の深海はキンメダイが生息する北限であり、沿岸から50㎞ほど離れた沖合に漁場が点在している。キンメダイの名産地といえば伊豆稲取が有名だが、伊豆沖よりも北の外洋に近い房総沖では、水温が低い分だけさらに脂が乗ったキンメダイが漁獲できるといわれている。

 鴨川では、水深200mから400mに生息するキンメダイを一本釣り漁(立縄漁)で漁獲している。身が締まり丸々と太った厚みのあるキンメダイは、鮮度を活かした刺身や脂の甘みが味わえる湯引きやしゃぶしゃぶがおすすめ。口に運んだ瞬間ふわっととろける舌触り、程よい弾力は、生息の北限で釣り上げるキンメダイだからこその贅沢な味覚だ。

美味しいだけじゃない!威勢良く新年を飾る鴨川産伊勢エビ

 伊勢エビと聞いてその名称からまず思いつくのは三重県だが、千葉県の漁獲量も毎年トップを争うほどで、千葉と三重の両県で全国の伊勢エビ漁獲量の4割ほどを占めている。外房の海は、キンメダイと同じく伊勢エビ漁の北限で、沖合に暖流の黒潮と寒流の親潮がぶつかる潮目があり、エサとなるプランクトンがたくさん発生するため生育が良いという。

 鴨川では古くから伊勢エビの刺し網漁が盛んで、荒波にもまれ身が締まっているのが特徴。大きさや色艶はもちろん、濃厚な旨味、上品な甘味、プリップリの弾力は絶品。新鮮なお造り、香ばしい鬼殻焼(オニガラヤキ)、味噌汁など、身がぎっしり詰まった伊勢エビを心ゆくまで満喫できる。

 そして、鴨川の伊勢エビは食用だけでなく、正月飾りの“飾り伊勢エビ”にも用いられている。今や陶器やプラスチック製のエビが主流となり、本物を使った飾り伊勢エビを作成しているのは、『いずみや鮮魚店』のみだという。
 飾り伊勢エビは元々東京下町で100年以上にわたり受け継がれてきた伝統工芸品。江戸時代から続く技法を頑なに守り続けてきた職人・若松謙二さんの「日本の伝統文化を自分の代で絶やすわけにはいかない」という心意気に感銘を受けた原田社長は、技の継承を決意。2013年に若松さんから製造技法を伝授され、伊勢エビの買い付けから加工まで『いずみや鮮魚店』で受け持っている。

 「繊細な手作業は女性に向いている」と考えた原田社長は、長女の尚佳さんに伝授された技法をつぶさに教え、日本唯一の作り手として育成。尚佳さんは日々研鑽を重ね、毎年6,000本あまりの飾り伊勢エビを作り上げている。繁栄、安全、健康長寿を願う正月飾りとして、家庭はもとより、都内のホテルをはじめ銀座の歌舞伎座や両国の国技館に飾られる。

 今回、鴨川産の魚の魅力を探り、沿岸から沖合にかけて生息する多種多様な魚介類、それらを捕らえる様々な漁法、漁師の皆さんの努力と工夫を改めて知り、感動ひとしお。ましてや我が国唯一の飾り伊勢エビが鴨川で製作されているとは驚いた。鴨川は、味わい尽くせぬ魅力と奥深さに満ちている。

取材協力/鴨川市漁業協同組合

有限会社 いずみや鮮魚店

取材・文/山内泉

Information

いずみや鮮魚店

1949年の創業以来、地元の漁師・海人と信頼関係を築き、老舗の目利きで本当に美味しいものだけを仕入れている「いずみや鮮魚店」。卸しと共に店頭販売にも力を入れており、お好みに合わせて[刺身のお造り]や[活き造り盛り合わせ]などを調理してくれる。熟練スタッフの包丁さばきで地魚の魅力を余すことなく引き出している。

Tel.04-7092-3101 鴨川市貝渚3202
営業時間/7時~17時 ※刺身盛合せの予約は14時迄
休業日/毎週日曜日
https://izumiya-fleshfishstore.net